凱旋

真下飛泉 作詞  三善和氣 作曲


目出度(めでたく)凱旋 なされしか
御無事でお歸(帰)り なされしか
お國のために 永々と
御苦勞樣で ありました

お送り申した その時は
櫻の花が 眞盛り
武士の譽だ いさぎよく
散つて戻ると 出られたが

散らせちやならぬ この櫻
又咲く春が 來たならば
算盤(そろばん)持つて 鍬(くは)持つて
立派に働く 君ぢやもの

お天子樣へ 御奉公
充分なされた 其の上は
心の中ぢや 御無事でと
朝晩折つて 居りました

祈つた甲斐か 知らないが
天晴(あつぱれ)敵を 追ひはらひ
こゝに凛々しい 男振り
凱旋姿を 見ようとは

扨(さ)ても思へば 二年振
知らぬ他國の 野に山に
彈丸(たま)の霰や 火の雨や
劍の下を かけめぐり

傷を負ふては 二度三度
命の瀬戸を 出入して
君の御爲 國の爲
戰爭されたも 何十度

思へば思へば 永々と
御苦勞樣で ありました
心一杯 思へども
お禮(礼)は口ぢや 云へませぬ

お禮は口ぢや 云はないが
これから先は 吾々が
おかげであがつた 日本の
名譽はきつと おとさずに

農業工業 商業と
一所懸命 働いて
お國を富ます 心がけ
これがいさゝか 其のつもり

今日途々(みちみち)に 出むかへて
天晴凛々しい 男振り
凱旋姿の 君たちに
口ぢやお禮は 云はないが

兩手をあげて 聲(声)あげて
萬歳唱ふる 吾々の
この眞心は 山々の
赤い紅葉が 知つてをろ





學校及家庭用叙事唱歌集の第6編.
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