慰問

真下飛泉 作詞  三善和氣 作曲


戰がすんで 小一年
銃の響の あともたえ
今太平の 代となつて
皆は笑顏に 暮せども

ここにあはれは 廢兵の
或いは 腕をもぎとられ
或いは 足を射ぬかれて
生れもつかぬ 不具となり

中には腦(脳)を うちぬかれ
狂氣となつた 人もあり
盲目(めくら)となつて 親達の
顔も見えない 方もある

戰は夢と 濟んだれど
太平の世と なつたれど
此(この)人々は いかにして
暮して おゐでなさるやら

屈強至極な 身をもつて
働きさかりの 身をもつて
茶碗と箸を もてぬのを
見ては 涙がこぼれます

杖にすがつて 片脚で
半町行つては 一休み
溜息ついて おゐでのを
見ては 涙がこぼれます

俄(には)か盲目の かなしさは
小溝一つも 飛びかねて
手をば引れて おゐでのを
見ては 涙がこぼれます

狂氣となつて 村中を
西へ東へ 騒がせて
叫んで廻る 有樣を
見ては 涙がこぼれます

此人々は 國の為
御天子様の 御為に
命ささげた 戰場の
天晴(あつぱれ)勇士で あつたのだ

天晴勇士の 廢兵を
慰問するのは 國民の
忘れちやならぬ 務だが
無事な我等は 尚更と

武雄は 近在近郷の
こんな人等を 聞くごとに
何度も出かけて 慰めて
親切づくの 同情を

見たり聞いたり する人は
皆恥入つて 勵まされ
一村擧つて 懇ろに
慰問をしたと いふ話





學校及家庭用叙事唱歌集の第9編.
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