プロローグ



「ただいまぁ」

「あ おかえり

相も変わらずさえない顔だね」

「これは筆者の画力の問題で…… 君だってひどいじゃないか」

「まあ どっちにしたってさえない顔には変わりないわけで」

「むう」

「お邪魔します」

「あ しずちゃん こんにちは」

「もうじき卒業式だろ?

校歌と『蛍の光』を練習してこいって先生に言われたから

一緒に練習することにしたんだ」

「こんなところで練習したらママが……って今日は町内会の慰安旅行でいないんだった」

「さて じゃあはじめようか」

「ええ」

「あ そうそう 『蛍の光』で思い出したけれど」

「?」

「この歌の3番から後を知ってる?」

「え 2番までじゃないの?」

「いや 実は4番まであるんだ」

「どんなの?」

「こんなの」


「蛍の光」
稲垣千穎・作詞 スコットランド民謡


筑紫のきわみ みちのおく
海山とおく へだつとも
その真心は へだてなく
ひとつに尽せ 国のため


千島のおくも 沖縄も
八洲(やしま)のうちの 守りなり
至らんくにに いさおしく
つとめよ わがせ つつがなく


「……」

「……」

「あら どうしたの 黙り込んじゃって」

「だって……」

「軍国的だからって一方的に排除するのはよくない

確かに戦後教育は人権尊重の気風を強めた

しかしその陰で失ってしまったものがあるのではないだろうか!」

「うーん……」

「他にも今では歌わなくなった歌ってあるの?」

「山ほど たとえば……」


「蝶々」
野村秋足・作詞 スペイン民謡

ちょうちょう ちょうちょう 菜の葉にとまれ
菜の葉に飽いたら 桜にとまれ
さくらの花の さかゆる御世に
とまれよ遊べ 遊べよとまれ


「桜の花の……」

「栄ゆる御世に……」

「戦後になって愛国的・軍国的なものは徹底的に排除されたのさ

この歌もそうだ」


「われは海の子」
文部省唱歌


丈余のろかい 操りて
行手定めぬ 浪まくら
百尋千尋(ももひろちひろ)の 海の底
遊びなれたる 庭広し


幾年 ここにきたえたる
鉄より堅き かいなあり
吹く潮風に 黒みたる
はだは 赤銅(しゃくどう)さながらに


浪にただよう 氷山も
来らば来れ 恐れんや
海まき上ぐる たつまきも
起らば起れ 驚かじ


いで大船を乗り出して
我は拾わん海の富
いで軍艦に乗組みて
我は護らん海の国


「4番から6番は軍国的ではないけれど 今ではほとんど歌われない」

「へぇ〜」

「そういえば少し前にテレビの雑学番組でやってたんだけれど」


「桃太郎」
岡野貞一作曲 文部省唱歌


そりゃ進め そりゃ進め
一度に攻めて 攻めやぶり
つぶしてしまえ 鬼が島


おもしろい おもしろい
のこらず鬼を 攻めふせて
分捕物を えんやらや


万々歳 万々歳
お伴の 犬や猿帷子は
勇んで車を えんやらや


「実にけしからん!」

「何だよ 急に」

「こんなんで採用されると知ってたら送ってたぞ 僕は のび太!」

「僕に怒られても……」

「他にもあるの?」

「よし じゃあこうしよう

明治からの歴史を勉強しながらそれにまつわる歌を……」

「勉強は勘弁」

「大丈夫大丈夫 中学レベルだから」

「僕まだ小学生なんだけれど……」

「面白そう 聞かせて」

「じゃあジャイアンとスネ夫も呼んできな ついでだし」

「次回 1時間目は『明治維新〜宮さん宮さんお馬の前に〜』です 楽しみに待っててね」

「各キャラ一枚しか用意してないのか」