サラザールと秘密の部屋
〜千年前の眞實〜



 「はあ.」
自室に歸るなり,初老の男はため息を吐き,椅子に腰掛けた.
この初老の男,名をサラザールといふ.
「ゴドリックめ,なんのつもりだ.」
独り言を言ひながら,彼は酒を呷つた.

ゴドリックは,幼少の頃からの友人であり,20年前,共に學校を創つた.
學校といつても,貴族の子弟が通つたりするものではない.
教會から異端者の烙印を押された,魔法を嗜む者達の爲の學校である.
同僚は他に2人.ロウェナとヘルガ.
この2人も20年前,創立時からの者達であり,この4人が最高理事である.
創立時,4人は方針をきめた.
門地に依らぬ教育.
當時,教會の嚴しい彈壓で,多くの同胞を失ひ,
その手から逃れる爲に,ある地域を結界で圍み,逃げ込んだ.
暫くして,前途ある子供たちを養成する爲の學校を創らうといふ,意見が出された時,
當時,學士として名高かつた,
ゴドリック,サラザール,ロウェナ,ヘルガの4人が名乘り出たのである.
それから20年近くたった今日,
ゴドリックが,主だった者達を集めて,話を切り出した.
「諸君.この20年で,我々は以前の隆盛を取り戻しつゝある.
どうだ,ここらで,この學園の方針を變えようではないか.」
「變えるつて何をだ.ゴドリック.」
「うむ.劣つた血筋のもの,及び,劣等者を追放しようと考へてをる.」
どよめきがおこつた.サラザールは食つて掛かつた.
「何を言ふか.本校の目的を忘れたのではあるまいな.」
「怨み重なる教會に一矢報ひんが爲,優秀な者たちを集めて教育するのだ.」
「しかし・・・」
「来週皆の意見を聞く.それまでにどうするか考へておいてくれ.」
「そなたの一存で・・・」
「五月蠅い!最高責任者は私だ!決を取れば,そなたの考へが間違つてゐたことが,
おのづとわかるであらう!今日は去ね!」

 氣がつくと,日は落ちてゐた.
こんなことをしてゐても始まらない.
志を同じうする者を集めて,ゴドリックを止めなければ.
その日から一週間,サラザールは理事や教員達に聲をかけてまはつた.
果たして,多くの贊同を得,票決の日となつた.
 理事と教員が一堂に會し,投票が始まつた.
開票.
贊成――3 反對――17.
反對派の勝利かと思つたその時,ゴドリックは立ち上がるや否や,言ひ放つた.
「最高理事4名の内,3名が贊同の意をあらはした.」
皆狐につまゝれた樣な面持ちで,ゴドリックを見つめてゐる.
「過半數に達すにより,規定どおり,本件は決定案とす.
よつて,今月中に,穢れし者共を本校より驅逐する.」
議場は騷然となつた.
「靜肅に!」
ゴドリックは,飛び交ふ怒號を一喝して制した.
「不滿のある者は出よ.」
サラザールは堪らず起ちあがつた.
「今まで默つてをつたが,そなたの傲慢無禮さは目に見るものがある.
この校一番の害毒でなくて何であらうか.私は,ここに解職要求を提出する.」
「私が不適任だと思ふ者は名乘り出てみよ.
規定により3分の2あれば成立だ.どうだ?」
しかしだれも言ひ出さない.
皆,唖の如く默りこみ,たれ一人として贊同する者はない.
皆がゴドリックを恐れてゐる.
屈指の實力者であり,政治中枢部にも顏が利く彼に對して,何も言ひ出せないでゐるのだ.
「わかつたであらう,サラザール.」
邊りを沈默が支配した.
「そなたは本學園にとつて,必要で無い存在だ.退職を要求する.」
誰からも異論は出なかつた.
斯くして,サラザールは學校から放逐せられた.

 1年が經つた.
ゴドリックは,魔法学校の最高責任者の座に居座り續け,
自分の意にそぐはぬ者を,次々と追放したり自殺に追いやつたりしてゐるらしい.
ヘルガが邪慳にされてゐるとも聞く
そして今,サラザールは,生と訣別せむとしてゐた.
自分のやるべきことはやつた.後は天に委ねよう.
 サラザールは,かねてより秘密裏に學校の地下に作つてあつた部屋にゐた.
――後繼者があらはれし時,封印は解かれ,學園内に蔓延る惡を拭ひ去りCめ祓ひ,
その拐~を復古せしむるであらう――
サラザールは,かはいがつてゐた蛇に一瞥すると,毒を仰いだ.
地下室内を,杯の轉がる音と,彼が倒れる音とが反響した.
後に殘つたのは,物悲しげにシューシューと鳴く蛇の聲だけである.




歴史は勝者が作るもの.
残ったゴドリック(グリフィンドール)が,好き勝手に改竄していても,
不思議ではありません.
原案はギャグでしたが,
拙作「ありふれた依頼」の様に誤解される可能性があるため,
この様な形と相成りました.
だってさ,
Gryffindor,Hufflepuff,Ravenclaw,Slytherinって寮の名前,(と同時に創立者の名前)
おかしいと思わない?
いや,ローリング女史が語呂合わしただけとかそう云うのは無し.
間抜けだの狡猾だの入っているのは何故か.
ずばり,ゴドリックが勝手に作ったw(おい)
もしくはその後継者が.
実際問題,墓を掘り起こして屍に聞くでもしなけりゃわからんのですよ.
真実は.
まあ,これが真実ならば,
1000年の後,ポッターが振るった「ゴドリックの剣」によって,
サラザールの意志は完全に潰えてしまったことになりますな.
ってこれじゃあポッターが悪役じゃん.
まあ,トム君はサラザールの意志を取り違えた勘違い野郎ってことで.(おい)

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