出征
真下飛泉 作詞 三善和氣 作曲
父上母上 いざさらば
私はいくさに 行きまする
隣家(となり)に居つた 馬さへも
徴發されて 行つたのに
私は人と 生まれ來て
しかも男子と あるものが
御國の爲の 御奉公は
いつであらうと 待つうちに
昨日屆(とゞ)いた 赤襷
かけて勇んで 行きまする
行くは旅順か 奉天か
いづこの空かは 知らないが
お天子さまの 爲ぢやもの
討死するは あたりまへ
父上母上 いざさらば
これが此世(このよ)の 暇乞ひ
お二人樣も 妹も
どうぞ御無事と 聲(声)くもり
顏見合せて 一雫
さすがに涙が 袖ぬらす
思へば永の 御養育
いつの世にかは 忘れましよ
大きうなつた 此の身體(からだ) よし孝行は せなんだが
お天子さまへ 御奉公
忠義をしたと 一言葉
死んだ後でも 私を
ほめて下され 頼みます
若(も)しも運よう 生き殘り
お國へ歸る 事あらば
死んだに勝る 手柄をば
きつと御覽に 入れまする
生きると死ぬは 時の運
決して泣いて 下さるな
父上あなたは 御老體(体)
山や畑の お仕事も
どうぞ御無理を なさらずに
朝晩お休み 願ひます
母上あなたは 病氣がち
我慢なさらず 御養生
おゝ妹よ お二人を
大事に孝行 頼むぞや
父上母上 いざさらば
妹(いもと)よさらばと 立上る
門(かど)には村の 人たちが
旗や幟(のぼり)を 差し立てて
村一番の 武雄殿
達者者で戰爭 なされよと
手を振り上げて 聲そろへ
萬歳萬歳 萬々歳
|